※ラ・クロワ四人婚です(NPCのNくん含む)
ハロウィンの喧騒が終わった日の夜。自室にこもって仕事をしていると、コンコンとドアがノックされた。
「頼城、俺だ」
「巡か、入っていいぞ」
カチャリとドアが開いて巡が入ってきた。手には巡の髪の色と似ている薄緑色のハーブティを持っている。パジャマを着込んでいるからもう眠るつもりなのだろう。
「いい香りだ。俺に?」
「ああ、根を詰めているだろうと思ってな。もう寝ろ」
香りから察するにカモミールかそのブレンドといったところだろう。淹れたてのハーブティはほこほこと湯気を立てていて暖かそうだ。巡からカップを受け取って机の上に丁寧に置く。
「ありがとう、いただくよ。寝るのはまだ少しあとになるな」
「そうか、じゃあベッドじゃなくてここで言うか」
頼城、誕生日おめでとう。
そう言われ、額にキスをされたところで日付が変わっていることに気がついた。もうこんな時間か。時計を見れば十二時を数分回ったところだった。
「ありがとう。一番に言いにきてくれたのか?」
「本当は柊に譲りたかったんだがな、待ってるうちに眠ってしまった。明日の朝はゆっくりしていけよ。柊が拗ねるからな」
誕生日の祝いの言葉を言えなくてむくれる柊の様子を想像したらあまりにも愛しくて愛しくて笑ってしまった。巡もきっと同じことを想像しているのだろう。やわらかく微笑んでいる。
「ふふ、ああ、そうしよう。明日は朝から家族の愛を受け取れる最高の一日になりそうだな」
「そうだな。じゃあ、俺は寝るからな。あんまり遅くならない内に寝に来いよ」
「ああ、仕事を片付けたら行こう。おやすみ巡」
頬に軽くキスをして巡が寝室に戻り、さて残りの仕事をやろうと机に向き直ったところで再びドアがノックされた。
「巡か? なにか言い残したことでも──」
「……俺」
ドアを開けたのは柊だった。不機嫌と眠気が混ざったくしゃくしゃの顔をしている。のそのそと俺のところに近づくと突然ぎゅうと抱きしめられた。体温の高い柊はぽかぽかして暖かい。
「……誕生日おめでとう……」
「ああ、ありがとう柊、起きてしまったのか?」
ふあ、と柊があくびをする。眠いのか頭を俺の肩に預けて脱力している。
「巡くんが戻ってきたから……起きた……言いたかったし……」
「そうか、もう戻って寝るといい」
「紫暮ももう寝て……一緒にねよう」
ぐいぐいと袖を引っ張られて困ってしまう。まだやるべきことがあるし、巡のハーブティーだってある。それを伝えると人はこんなに感情を顔に出すことができるのかと思わせられるぐらい「不機嫌」を顔に出してバカと言われてしまった。
「ばか。巡くんのハーブティーはおいしいから分かるけど……早く飲んで寝て」
「そこまで言われてはな……分かった、ではこれを飲んだら寝るとしよう」
「そうして。俺は寝る。おやすみ」
もう一度ぎゅうと抱きしめられてから柊はふらふらと寝室に戻っていった。
さて、あんなに早く寝ろと言われてしまっては寝る他ない。仕事を簡単にまとめて明日に持ち越す準備をし、巡のハーブティーをふぅふぅと冷ましながら飲んでいると携帯からNの声がした。
『紫暮、もう寝るの?』
「ああ、巡からのハーブティーを飲み終わったら寝ようかと思っている」
『じゃあ俺からも。ハッピーバースデー紫暮』
携帯が振動したので画面を開くと、3Dで作られた花火が上がっている動画が表示された。花火で「紫暮 誕生日おめでとう」の字が表示される。キラキラと輝く花火はフリックで上下左右に視点移動できるようだ。
「すごいな、これはNが?」
『エンジニアの人に手伝ってもらいながらだけど、作った』
「ありがとうN、素晴らしい誕生日プレゼントだ」
画面の中にいるNの頭を撫でる。Nは嬉しそうにぴこぴこと喜んだ時の音を鳴らしてくれた。
巡からもらったハーブティーも飲み終え、あとは眠るだけとなった。寝室に向かい、静かにドアを開けるとぐっすりと眠っているふたりの姿がある。暗闇に目が慣れてくると、すこしの違和感を感じる。いつもはくっついて眠っている二人が、今日は離れて眠っている。暖房が効きすぎているのだろうかと思ったが、ふとその隙間の幅が人ひとりぶんであることに気がついて思わず笑みがこぼれる。
(ああ、俺はなんて幸せ者だろう)
起こさないようにそうっとふたりの間に入り込み、目を閉じる。暖かな寝床は柔らかく、幸せな夢が見られそうだった。