頼城が海外へ行っている時、たまに手紙が届くことがある。チャットアプリでいくらでも話せるというのに、手書きで、国際郵便で、わざわざ異国の地から手紙を出してくる。今回は俺と柊、ふたり宛に手紙が届いていたらしい。
寮母さんから封筒を受け取り、レターオープナーで開封する。中には海外の様子、こちらを気にかける文章、見せたいもの、届けたいもの、一緒に楽しみたいもの、思ったこと、感じたこと、その他諸々が便箋十枚ほどに渡って綴られていた。
柊の方も同じく便箋十枚ほどに様々なことが書き連ねられていたようで、その十枚の紙に「紫暮は紙でもうるさい」と唸っていた。
「巡くん、返事書く?」
「いや、二、三日後には帰ってくると書いてあったし、特に考えていないな」
「そうなんだ……」
少し意外そうに目を瞬かせてじっと手紙を見つめる柊。その様子に微笑ましいものを感じる。
「柊は返事を書くのか?」
「ん……だって、お手紙だし。紫暮からのだけど」
「そうか、それもいいな。きっと喜ぶ」
柊が手紙をめくって唸っている。きっとなんて返事を返したらいいのか考えているのだろう。
「部屋に余っている便箋がある。持っていくといい」
「いいの? ありがとう」
部屋に戻って便箋を手にする。そういえばこの便箋も、確か頼城からの手紙に返事を出すために買ったものだった。便箋なんて滅多に使うものじゃない。俺なんかに手紙を書いてくるやつだって頼城ぐらいのものだ。
思えば手紙を初めてもらったときはどうしていいか分からなかった。どう返事を書いたらいいものか悩みに悩んで、結局とてもシンプルな内容になってしまった手紙をエアメールで送ったら後日とても喜ばれて死にそうに恥ずかしかったのを覚えている。
きっと柊も同じで、これから悩みに悩んで返事を書くのだろう。後日きっと大喜びで受け取る頼城の顔が目に浮かぶようだ。
「便箋ありがとう」
部屋の前で待っていた柊に便箋を手渡す。部屋に持って戻ろうとしたのを、柊、と名前を呼んで引き止めてしまう。
「あーっと……その、やっぱり、俺も返事を書くよ」
「そうなの? じゃあ便箋いるね、返す」
「いや大丈夫だ、半分にしよう」
便箋を半分ずつにして改めて柊に手渡す。
「巡くんから返事もらったら、多分紫暮すごく喜ぶと思う」
「ハハ、そうだな、柊も手紙を額縁に入れられる経験は一回ぐらいした方がいいぞ」
「うっなにそれ……急に返事出したくなくなってきた……」
それでも柊は返事を書き、俺も返事を書いた。
後日頼城に手渡した時にあまりに喜ばれ、内容を読んだ頼城がいたく感動して柊と俺を抱きしめ、手紙を永久保存する方法を藤本に探すよう言い渡しこの感動を伝えるために手紙を書く柊と巡の銅像を建てようと言い出す騒ぎになった。
「やっぱり返事書かなければよかった……!」
「ハハ、まぁこうなるよな」
手紙ひとつでここまで大騒ぎになるやつを俺は他に知らない。まぁ喜んでもらえたのは何よりだが。
頼城からの手紙は幼い頃からたくさんもらっていたから、レターボックスの中にはたくさん積み重なっている。今回の手紙もその山の一番上に置いて、保存することにした。
柊にもこうしたレターボックスの存在を教えた方がいいだろうか。これからきっと、手紙が増えるだろうから。