エデン組で花火

「夏になったらさあ、花火しない?」
 食卓を囲んでいたほかの四人にそう聞くと、一拍置いてわあっと歓声があがった。
「いいじゃんやろうよアクシア」
「私あれがやりたいです、ヘビ花火」
「ヘビ花火?! 私は手で持つ花火で字を書くやつしたいな!」
「いいですねぇ、僕は線香花火ができればいいかな」
 それぞれやりたい花火を思い思いあげていって、夏の約束ができていく。
「アクシアはなにがしたいの?」
「俺? おれはーそうだな、」
 そう言われて、五人で花火ができればいいだけだったので特にこれがしたいという希望がなかったことに気づいた。ちょっと悩んで、思った通りのことを口にする。
「五人で花火できればなんでもいいかな?」
「お前まじでそういうとこ」
 笑いながらお店を出て、ヴィンさんが「毒煙買いたいからコンビニ寄っていいですか」と言ったのでみんなでコンビニに寄ることにした。
「花火あんじゃん」
 レジ前に置かれたちいさな机の上に、花火セットがおいてあった。ファミリーパックと書かれたいろいろな花火が入っているやつ。手持ち花火と線香花火は入っているけど、ヘビ花火はどうだろう。パッケージの印刷部分に隠れてわからない。
「え、やります?」
「でもお水がないよ」
「すんませんバケツとか売ってます?」
「あー向かいの百均にあるかもしれませんが」
「え、まじですかありがとうございます」
「え、どうするんだやるのか?」
「逆に今やらないマ?」
 先生が冬は空気が乾燥してるから水場の近くがいいかもね、と言ったので地図で川がないか探すと、近くの公園に池があったのでポリバケツを買ってみんなでそこに向かった。
 夜の公園はひとけがなくて静かだった。電灯が等間隔にならんでいてぼんやりとあたりを照らしている。風がなくて木もざわざわしていない。
 公園の真ん中ぐらいに池があって、その周りにぐるりと柵がしてあった。でも一部の浅瀬だけが土手になっていて柵がなくて、そこで自由に遊べるみたいだった。
 青いポリバケツを運んでいたローレンが池のふちまで歩いていって、うわ濡れるかもと言いながら水を汲んだ。浅瀬だから一度に汲める量が少なくてちょっと濡れたらしいがまぁまぁ大丈夫だったらしい。ライターはヴィンさんとローレンが持っていたのでそれで順番に花火に火をつけてもらう。最初はパタさんで、手持ち花火に火がつくとキャッキャと笑いながら花火をぐるぐる回していた。花火の残像がほたるみたいに目に残ってまぶしい。
「ローレン動画撮って動画!」
「まじか普通のでいいの? やり方わからんどうすればいい」
「私もわかんない普通のでいいんじゃないか?」
「ちょっとヘビ花火ありましたよヘビ花火」
 ヴィンさんがヘビ花火に火をつけたので先生と俺と博士でかこんでヘビ花火を見守った。ヘビ花火初めて見ますという先生に博士がどういう花火か解説していて、中盤勢いを増したヘビ花火に先生が驚いて逃げて博士がテンション爆上げでヘビ花火の様子を実況してておもしろかった。
 手持ち花火が一番たくさん入っていたから、めいめい手に取って文字を書いてみたり追いかけっこをしてみたり何刀流までできるか挑戦してみたりした。ひかる火花があちこちではぜていて明るくて、火薬の匂いが懐かしい感じがした。
「あとこれだけだね」
 最後に残ったのは線香花火だった。みんなで均等に分けて、だれが最後まで花火を残していられるか競争をする。パチパチと弾ける線香花火は逆向きになった打ち上げ花火みたいできれいだ。まるい大きな火薬だまりがジリジリと音を立てて燃えている。意外と激しく燃えるから、火花を避けるために途中からちょっとだけ遠くに離して見守った。火花がほんのりあたたかい。二本ずつ配ったから二本勝負になって、一回目勝ったのは先生で二回目は俺が勝った。
 花火が終わると急に周りが暗く感じられる。こんなに暗かったっけ。なんとなくほんの少しの寂しさを感じるけど、ほかの四人がわいわい騒がしかったのでそんなにひたることもなかった。
「あーめっちゃ楽しかった」
「楽しかったですね」
「またやりたいぞ!」
「じゃあ夏もやる?」
 やるでしょ、やりたい!、やりたいですね、やりましょうか、それぞれ答えが返ってきてみんな笑っている。俺も嬉しくなって笑う。
 約束は特にしないけど、でもまた一緒にできると確信できるのが嬉しかった。今年の夏も来年の冬も、また五人で花火をしよう。