四月も半ばだというのに、今日は朝から空気が冷たかった。ガタガタ動く窓、ザンザンと降る雨、ゴロゴロと鳴る雷。ひどい天気だ。昼なのに暗い外を見ていると、メッセージの着信があった。巡くんからだった。
『天気が酷いが、そちらは大丈夫か?』
当直の俺を心配してくれたんだろう。指を滑らせて「大丈夫」と返信する。イーターもいないよ、と追加で送信すると、そうか、とシンプルな返事が返ってくる。
『巡くんは大丈夫? 今日四月なのに寒いよね』
そう打ちながら寒気を感じたので長袖を追加で着る。もぞもぞと着ていると着信が来たので、顔だけ出した中途半端な状態で画面を見た。
『春雷というやつだな。暖かくしておけ』
しゅんらい。春の雷。なんだろうと思って調べてみると、春に鳴る雷、とそのまんまのことが書いてあった。よく分からない。
『春雷ってなに?』
送信してから長袖に腕を通す。暖かい。姉さんは今日、暖かくしているだろうか。冷え込んでいる時の姉さんの温度は冷たくて不安になることがある。もちろん病院の人たちは信頼しているけど、そうじゃなくて。ゴオゴオと吹く風と雨をぼんやりと見ていると、携帯が鳴った。
『春の嵐のことだ。寒冷前線が通過する時に起きる。これが過ぎると冷え込むから注意しろ』
春の嵐。寒冷前線のことはよく分からなかったけど、これからもっと寒くなるらしい。それは困る。施設のみんなは、もう衣替えをしてしまっていないだろうか。
『分かった』
そう返してから、春の嵐、というところを見る。ここだけ見ると巡くんみたいなのに、あまりよくないものみたいだ。バチバチと鳴る巡くんの長刀を思い浮かべる。巡くんの緑色の髪と赤いマントが揺れて稲光がイーターを焼く。焦げる匂いが少しだけして、イーターがパラパラと細かくなる。そうして巡くんが振り返る。少し険しいその顔が緩められて笑顔になる瞬間が好きだった。
『春の嵐って巡くんみたいだ』
そう送ると、少し間を置いて巡くんから返答が来た。
『さしずめお前は寒気だな』
よく分からない。疑問符を浮かべていると、『頼城は暖気だろう』と追加で返信が来た。なんとなく分かった。
『嫌?』
そう返す。春の嵐からの返答はなかった。