眠れない。ざあざあと降る雨の音に邪魔されているためか、それともただ単に神経が高ぶっているためか。イーターと戦った日にはたまにあることだった。眠れるように目を瞑って寝返りを打ち続けるのにも嫌気がさしてきたし、なんだかお腹が空いてきて、それが余計に睡眠を邪魔しているような気がした。時計の針を見るために瞼を開けると、少しも重たくなくて苦笑してしまう。夜の十二時。食堂に行って何かつまんで来ようと思った俺はもそもそとベッドから起き上がるとスリッパを引っ掛けて一階へと移動した。
食堂に行くと意外にも明かりがついていた。誰がいるんだろうと思い厨房を覗き込むと、今まさに洗い物を終えたばかりという感じの良輔くんがいた。
「あれ、御鷹さんこんな時間にどうしたんですか」
「いや……ちょっとお腹が空いちゃって。良輔くんは?」
「俺は課題が終わらなくて……今、明日の弁当の仕込み終わった所です」
良輔くんは寮母さんがいない時、自分でお弁当を作っている。普段の寮のご飯も作ってもらう時があるけれど、彼のご飯は本当に美味しい。良輔くんは偉いね、と感心して言うと、身に染み付いてるだけですよ、と照れたように笑った。
「そういう俺もなんかお腹空いちゃったんで、よければ何か用意しますよ」
「ええっ、いいよ大丈夫、自分でなんとかするから」
「いやいいんですよ、俺が食べたいんだし。確かこの辺に……」
良輔くんは勝手知ったる、といった様子で戸棚の中を探ると、すぐにボウルのような容器を出してきた。
「指揮官さんが非常食にって買ってきたカップ麺です。これ美味いんですよ。一人だと多いんで、よかったら二人で分けて食べませんか」
そう言われて断れる人なんているんだろうか。良輔くんの人の良さそうな顔と、美味しそうなラーメンの写真を見ている内にぐぅ、とお腹が鳴ってしまったので、じゃあ、お願いしますと笑ってごまかしながらお願いしてしまった。
「カップ麺って、僕はじめて食べるかもしれない」
「えっそうなんですか?!」
「うん、だから楽しみだなぁ」
「御鷹さんの舌に叶うといいんですけど」
お湯を注いで三分待つ、それだけでラーメンが食べられるのは凄いことだなとしみじみ思う。ラーメンのスープ用に袋が三つ、乾燥した野菜とチャーシューが二袋。ちょっといいやつなんですよ、とさっき良輔くんが言っていた。普通はスープ用の袋がひとつらしい。カップ麺にも色々種類があるんだな、と思っていると三分経過したらしく、良輔くんが蓋をペリリと開けた。
「こうして三分経ったらスープの袋を開けて、全部入れちゃうんです」
良輔くんは残っていた袋を開けて、手際よく中のペーストをお湯の中に絞り出していく。途端にふわりと中華風のいい香りがして、ぐぅとお腹が鳴る。箸でちゃっちゃとかき混ぜると、普段使っている俺のどんぶりに半分取り分けてくれた。
「ありがとう、いただきます」
「お粗末様です。いただきます」
ずるると麺を啜った良輔くんに習って自分も麺を啜って食べる。美味しい。
「深夜のラーメンって、罪の味ですよね」
美味しいけどなんか体に悪そうだし、みんなにも内緒だし、と良輔くんが言うので、なるほどと食べながら頷いた。確かに夜中にこんなものを食べたら太ってしまいそうだし、自分だけ食べるのも申し訳ない気持ちになる。
「でも、今回は半分こだから」
「そうですよね、カロリーも半分だし、二人で食べてるからセーフですね」
きっと、このラーメンが美味しいのは二人で分けて食べているから、というのもあるんだろう。半分のラーメンを食べ終わるとお腹が落ち着いて、なんだかよく眠れそうな心地になっていた。
「良輔くんありがとう。実はちょっと眠れなくて食堂に来たんだけど、少し食べたから眠れそうだ」
「そうなんですか? それはよかったです。ラーメンが助けになるといいですけど」
その後、二人して洗面所に行って、一緒に歯を磨いて入り口で別れた。ベッドに戻って横になると、さっきまで一向に寝付けなかったとは思えないぐらい簡単に眠れて、翌朝はちょっとだけ寝不足だったけど、ぐっすりと眠れたので疲れはあまり感じなかった。
今度、誰かを誘って夜中にカップ麺を食べてみようかな、と思う。とても美味しかったから、誰かを道ずれにしてまた食べてみたいなと思ったのだ。