斎樹くんってあんまり物欲とかなさそうだよなぁ、と思っていた。勝手に。なんていうか必要なものだけをきれいに整えて使っていそうで。それもなんか僕のよく知らないメーカーのきれいでスッキリしたデザインのなにかをそろえて、清潔できれいな部屋できれいなものに囲まれて生活しているんだと思っていた。
だからコンビニで「新発売! タピオカミルクティー味ペヤング」とかを「なんだこれは」とかって手に取って眺めていたとき、ちょっとレアなものを見たときみたいな感動があった。斎樹くんがタピオカミルクティー味のペヤング持ってる。タピオカミルクティー味のペヤングもペヤング冥利に尽きるだろう。だって斎樹くんに興味を持ってもらえたのだから。
僕は斎樹くんがしげしげとパッケージを眺めている横から、ある種の緊張感を持って話しかけた。
「た、食べるの?」
「いや、そもそもこれは食べものなのか? やけに軽いし音が硬いが」
シャカシャカとペヤングを振る斎樹くんに、中身は乾燥した麺であることを伝えると驚いていた。
「パスタみたいなものか。お湯で三分……なるほどな」
「まぁ焼きそばなんだけどね」
「焼きそばをお湯で……?」
お湯を入れて三分待って、あとでお湯を捨てるんだよ、と言うと、その後焼くのか? と聞かれたので焼かないよと答える。
「焼かないのに焼きそばなのか……」
「まぁ、不思議な感じするよね。でも案外ソースで絡めちゃえば焼きそばっぽくなるよ」
「ここにも書いてあるな、決め手はソース。なるほどな」
妙なところで感心している斎樹くん。レアだなぁと思う。だってコンビニも知らなければレトルトの焼きそばも知らない人だ。僕なんかがそれを教える立場に立ってていいんだろうか。まぁ、こういう俗っぽいものを教える立場であれば、ヒーローの中では僕が最適かもしれないけど。
「ところでこのタピオカミルクティーという味はどんな味なんだ?」
「あっそこからか。ええとね、どんな味か……は……僕にも分かんない……」
「久森にも分からないのか」
「タピオカミルクティーは分かるんだけどそれのペヤングとなると……ちょっと……」
「俺もミルクティー味は分かるんだがな、タピオカがなんなのかが分からない」
「タピオカかぁ、店内にあると思うよ。飲んでみる?」
そんなわけで目的のもの以外にタピオカミルクティーを買った。お店から出て帰る。帰り道、僕がタピオカミルクティーにストローを刺して飲みだすと斎樹くんが真似をして自分も袋からタピオカミルクティーを出して飲み出した。
「……この黒いゼリーみたいなものがタピオカか?」
「そうそう。なんだっけ、なんとかっていうおいものデンプンを丸めてるみたいだね」
「デンプンか、なるほど」
「……どう?」
「ああ、うまいぞ。茶葉はアッサムだろうな。そんな感じがする」
「アッサム。なんか聞いたことがある」
「今度淹れよう。茶葉が合宿施設にもある」
「えっ、あっ、ありがとう」
流れで斎樹くんのお茶を飲めることになってしまった。いいんだろうか。
「しかしこのタピオカミルクティー味? の焼きそばというのがなかなかイメージがつかなくてな」
「あっうんそれはね、そう。多分そういうよく分からないのを狙ってる商品だから」
「? そうなのか。よく分からないのを売りにするのも珍しいな」
「コンビニでは結構そういうの見るよ。ペヤングだとこの前何人分だったかな、すごい沢山、十人分ぐらい? がまとめて入ってるのとか売ってたし」
「十人分? それはまた、なんというか、思い切ったな。コンビニは色々あって楽しいところだな」
斎樹くんの笑顔が眩しい。コンビニに一緒に行って俗っぽいもの一緒に買って、そんな楽しみを分かち合える人なんて思ってなかったから、なんだか嬉しい。
「楽しんでもらえたなら、よかった。斎樹くんてこういう、必要じゃないけど欲しいもの買うみたいなことするイメージなかったから、なんか意外だった」
「まぁ、前まではそうだったな、確かに。必要以上のものは買わなかった。でも最近は、そうでもない。案外楽しいものだよ、買い物も」
そう言いながらタピオカミルクティーをかかげる斎樹くんは、確かに楽しそうだった。
「物欲ってこんなかっこいい見え方することもあるんだなぁ」
「ん?」
「あっいやなんでもないです」
挙動不審な僕を深く追求することもなく斎樹くんは微笑んでくれた。ありがとう。
また今度、一緒に買い物に行こう。なんか、おいしそうなものでもリサーチしておいて。斎樹くんが楽しいという買い物体験のひとつに、僕との買い物が並んでくれたらいいな、なんてちょっとおこがましいことを思いながらタピオカミルクティーを飲んだ。