「巡くんはいつもあたたかそうな格好をしているね」
学校の帰り道、柊が俺の顔を覗き込んでそう言った。そう、だろうか。
「寒いという問題があるのに対策を取らない道理はないと思うが」
改めて自分の服装を眺める。コート、手袋、マフラー、イヤーマフ。制服の下には発熱効果があると謳われている肌着も着込んでいる。久森に教えてもらったメーカーのものだが、これはいいものだ。
対して柊はコートを羽織っただけの身軽なものだった。手袋はおろかマフラーすらしていない。
「柊は寒くないのか?」
「ん……平気。もこもこしてると動きづらいし、ちくちくするのもあんまり好きじゃない」
なるほど。ウールは確かにすこし刺激があるし、いざというときに動きづらい。
「体を動かすようになってからそんなに寒いと感じなくなったし」
「なるほど、筋肉量が増えたんだろうな」
俺もヒーローを始める前と比較すると格段に筋肉量が増えたはずだが、冬は寒いし夏は暑い。冬はあたたかな服装をして暖房の効いた部屋にこもっていたいし、夏は冷房の効いた部屋で冷たい紅茶を飲んでいたい。
「でも今日はちょっと寒いかも」
「ああ、確かに今日は冷えるな」
ここ最近暖かかった気温はぐっと下がり、今日は打って変わって冷たい木枯らしが吹いている。だからこそ俺も防寒をしっかりしてきたのだ。ぶるりと震える柊がすこし心配になる。
「柊、これを家に着くまでしておけ」
首元からマフラーを外して柊に差し出すと、柊がすこし驚いて首を横に振った。
「いいよ、巡くんが寒いでしょ」
「幸い俺は他の防寒具があるから平気だ。俺の使っていたもので悪いが、なにもないよりはいいだろう」
柊がためらって困ったように眉をさげながら、いいの? とおずおずマフラーを受け取った。
「ああ、カシミアだからそんなにちくちくもしないはずだ」
「菓子ミア? よく分からないけどありがとう」
マフラーを首に端からぐるぐる巻いていく柊。その巻き方では多分よくないぞ、と思っていると案の定マフラーに埋もれてしまった。
「巡くんこれどうすればいいの……」
「すこししゃがんでくれ」
「ごめんね」
ぐっと膝を曲げて俺より目線が低くなる柊。ひざまずく寸前ぐらいまで膝を曲げた柊の首からマフラーをほどいて、少し端にゆとりを持たせてふんわりと巻いていく。両端が同じ長さになるぐらいまで巻いて簡単にひとつ結びをし、首に巻いた部分をぐるりと回して結び目を後ろに持っていけば完成だ。
「できたぞ」
結び目をぽんとはたくと柊がゆっくりと膝と背筋をのばしていく。
「ほんとだ、ちくちくしないね。それにすごくあったかい」
柊が嬉しそうに笑う。ラ・クロワヒーローの証である紫色以外のマフラーも柊にはとてもよく似合うようだ。
「そうか、あたたかいなら何よりだ」
今度の柊の誕生日にはマフラーをプレゼントしよう。すこし寒い時期は過ぎるかもしれないが、来年の柊があたたかく過ごせるといいと思う。もこもことしたマフラーを嬉しそうにしている柊は見ているだけでこちらの心の中があたたかくなってくる。
誕生日にはあたたかくした部屋で、温かい紅茶とマフラーを渡そう。ジンジャーを入れるのもいいかもしれない。少しでも柊が冬の寒さ、夏の暑さを忘れ空腹を感じず、快適にすごす空間を提供できればと思いながら頭の中で買い物に行く計画を立てていた。